人間失格、、みたいな小説を書いてみた
ここに、一通の封書がある。
健診案内書だ。
10月23日(金)
私はその日、1日の一番最初に口に入れるものが、バニラ味の、あの、重苦しい飲み物でなければならないという、一年の中で、最も憂鬱な日を迎えることになった。
バニラ味の重苦しい飲み物とは、言わずもがな、バリウムのことである。
べつに、バリウム苦手じゃないけど
そして、健康診断も、、苦手じゃない。
ただ、いろんな理由があって、私は、本来ならば、真夏に健診を受けることにしている。
その理由とは、検💩である。
検💩は、潜血を調べる検査になる。
潜血が見つかったら、大腸癌の疑いにより、二次検査で、水戸のご老公、つまり肛門様から内視鏡が入れられて、グリグリされるという、胃カメラよりの苦しさよりも想像を絶する、拷問に課せられるのだ。
幸い、私は、その憂き目に遭ったことはないが、、
検💩で潜血が発見されるのは、なにも大腸癌だけではない。
そう。私の水戸のご老公は、イボぢとキレぢという、ありがたくない印籠をお持ちなのだ。
この印籠が出されるのは、気温が下がる冬が多い。
一切、なんの悪事に手を染めてもいないのに、光圀公は、寒いというだけで、容赦なく印籠を出してくるのだ!
その二次災害を防ぐ理由もあり、私は、比較的ご老公が穏やかな、夏に健診を受けるのだ。
しかし、新型コロナのおかげで、感染拡大防止のために、健診機関は休みとなり、私は、夏に健診を受けることができず、10月の下旬とあいなったのだ。
気温がぐんぐん下がる中、私は、ご老公のご機嫌をとった。
ヒートテックを履き、ミニホットカーペットを敷き、辛いものを避け、ゆっくりお風呂に浸かり、ご老公へは、いかにも今は夏ですよと、優しく説くように接したのだ。
そのかいあってか、私のご老公は、印籠を出すこともなく、私は、検診で見事に検💩をクリアした。
問診にあたってくれた、40代半ばと思われる女医さんは、優しく、貧血以外どこも悪いところはありませんよ。とわたしに囁いてくれた。
貧血?
その話は、また次回にしよう。
私は、意気揚々と健診機関から自宅へ帰った。
しかし、その後に、私を襲った悲劇を、想像できるだろうか?
そう、あのバニラ味の重苦しい飲み物を、体内から排出せねばならぬのだ。
そのために服用した、二錠の下剤、、、
もともと私のベンツーは、なかなか良い方だ。
ちなみに、ドイツの高級車ではない。念のため。
なので、バリウムが排出されず苦しんだことは無い。
二錠の薬はあっけなく私の体内をめぐった。
そして、今回も、順調に、、、
いや、順調すぎる、、、
あえて言うなら、過ぎたるは及ばざるが如し、、
たった二錠の薬は、私に必要以上のバリウムの排出を促した。
2度、3度、4度と繰り返される、排出を促す腹部への知らせに、私は悶絶しながら、個室へと篭り、そして、その負担は、激しくご老公の怒りに触れたのだ!
ご老公は、裂けんばかりに怒り狂い、真っ赤に腫れあがったのだ!
ああ、お許しください、ご老公さま、、
なんとか、その怒りをおさめ、そのイボとキレの恐ろしき印籠を、懐に納めていただけませんか!
わたしは、涙を流しながら懇願したが、ご老公は容赦しなかった。
容赦しなかったのは、ご老公だけではなかった、二錠の薬は、バリウムを排出したあとも、その役割がまだあるものと勘違いし、わたしに排出の信号を送り続けた。
翌日の土曜日、気持ちよく晴れた空、、、
ご老公の怒りは治らない、、
それでも、娘のダンス発表会に行かねばならない、、
私は、1時間以上も、娘のダンスを見ながら、ホールの椅子の上で、ご老公の、いまだ治らぬ怒りに付き合わなければならなかった。
そして、日曜日、からっと晴れた空のもと、、
まだまだご老公の怒りは治らない、、
床暖のきいた床に寝転がりながら、ご老公のご機嫌をとっていると、妻が私に語りかけてきた。
天気がいいから、バイクで出かけると思ってたのに、、、
私も、そのつもりだった。
先週、天気予報を見て、土日のどちらかは、早く起きて、私の愛してやまない愛車に跨り、まだ見ぬ地へ出かけるはずだったが、、
いまは、ただ、ただ、床暖の暖かさに身を任せ、ご老公の怒りを治めるために、寝転がっているのである。
家族の者から見れば、休日にダラダラと家で過ごす、ダメなオヤジそのものだ。
まったく、、人間失格だ、、、
私の脳裏をその一言がよぎる、、
ご老公の怒りさえなければ、、、
了
多分、芥川賞、確定だね。
うんわぐっく!